訪日客は10年で2.16倍、観光企業の利益は?|ホテル・旅行関連10社を比較

企業の決算を、読み解く。決算情報サーチ

訪日外国人旅行者が増えれば、ホテルや旅行会社の業績も一緒に伸びるのだろうか。2025年の訪日外客数は4,268万人と、2015年の約2.16倍になった。しかし、観光関連企業の決算を見ると、利益の伸びは一様ではない。

本記事では、ホテル・旅行・予約関連の上場9社に、非上場大手のJTBを比較対象として加えた10社について、10年前・5年前・直近通期の売上高と営業利益を比べる。交通会社と観光施設は対象に含めていない。

この記事のポイント

  • 訪日客数の拡大と、個々の会社の利益成長は分けて見る必要がある。
  • 10年前を上回る利益を稼ぐ企業がある一方、当時の営業利益に届かない企業や営業赤字の企業もある。
  • 5年前のコロナ禍からの回復だけでなく、事業構成・会計基準・施設数の変化も確認したい。

情報基準日:2026年10月22日。企業業績は直近公表済みの通期実績を使用し、最新四半期や会社予想は混在させていない。金額は連結・億円、小数第1位に四捨五入。▲は損失。公表値による比較であり、会計基準や連結範囲を全期間にそろえ直したものではない。

訪日客数は10年前の約2.16倍に

日本政府観光局(JNTO)の確定値によると、2025年の訪日外客数は42,683,301人。2015年の19,737,409人から約116.3%増え、コロナ前の2019年に比べても約33.9%多い。

2015年の訪日客数1,973.7万人
2025年の訪日客数4,268.3万人
2015年からの増加約2.16倍
訪日外客数の推移(暦年・確定値)
暦年 訪日外客数 2015年=100
2015年 19,737,409人 100.0
2019年 31,882,049人 161.5
2020年〈コロナ禍〉 4,115,828人 20.9
2021年 245,862人 1.2
2024年 36,870,148人 186.8
2025年 42,683,301人 216.3

出典:日本政府観光局(JNTO)「年別 訪日外客数、出国日本人数の推移」。訪日外客数は観光目的以外も含むJNTOの統計上の人数で、宿泊者数や各社の利用者数とは異なる。上表は1~12月の暦年であり、企業の決算期間とは一致しない。

一方、足元まで増加が続いているわけではない。2026年9月の訪日外客数は310万3,700人で、前年同月比5.0%減だった。長期的な拡大と直近の変化を分けて捉えたい。JNTO・2026年9月推計値

ホテル5社:需要回復の先で、収益力に差

各社の直近通期から10期前・5期前を並べた。共立メンテナンス、帝国ホテル、ロイヤルホテルは3月期、グリーンズは6月期、藤田観光は12月期の比較となる。

ホテル関連5社の連結業績|各欄の上段:売上高、下段:営業利益(億円)
会社・コード 10年前 5年前 直近通期 直近の
営業利益率
共立メンテナンス
9616
2016/3
1,350.5
102.4
出典
2021/3
1,212.8
▲90.6
出典
2026/3
2,752.5
248.5
出典
9.0%
藤田観光
9722
2015/12
639.8
0.4
出典
2020/12
266.5
▲206.1
出典
2025/12
820.0
138.0
出典
16.8%
帝国ホテル
9708
2016/3
558.1
40.7
出典
2021/3
220.5
▲117.1
出典
2026/3
562.7
21.3
出典
3.8%
グリーンズ
6547
2016/6
250.1
22.8
出典
2021/6
157.1
▲85.7
出典
2026/6
540.0
69.6
出典
12.9%
ロイヤルホテル
9713
2016/3
415.3
20.5
出典
2021/3
156.4
▲97.9
出典
2026/3
292.7
11.6
出典
4.0%

共立メンテナンス・グリーンズ:10年前を上回る利益

ドーミーインやリゾートホテルを展開する共立メンテナンスは、連結営業利益が102.4億円から248.5億円へ約2.43倍に拡大した。営業利益率も7.6%から9.0%となっている。ただし、連結実績には寮や不動産などの事業も含むため、全体の増益をそのままホテルや訪日客の効果とは扱えない。

コンフォートブランドなどを展開するグリーンズは、営業利益が22.8億円から69.6億円へ約3.06倍となり、営業利益率も9.1%から12.9%に上昇した。利益の拡大は確認できるが、出店や客室数の変化も含めた結果である。

藤田観光:利益率は大幅に改善、低い比較基準には注意

ホテル椿山荘東京やワシントンホテルなどを展開する藤田観光は、2025年12月期に営業利益138.0億円、営業利益率16.8%を計上した。2015年12月期の営業利益は0.4億円と小さかったため、単純な増益倍率ではなく、利益額と利益率の改善で評価するのが適切だ。

帝国ホテル・ロイヤルホテル:黒字回復と長期成長は別

帝国ホテルの2026年3月期の営業利益は21.3億円で、2016年3月期の40.7億円の約52%にとどまる。ロイヤルホテルも11.6億円と、10年前の20.5億円を下回る。いずれも5年前の大幅赤字から回復しているものの、回復したことと、10年前を超える収益力を得たことは同じではない。

この差から「インバウンドの恩恵がない」とまでは言えない。改装・建替え、営業する施設の構成、保有と運営の形態などが変われば、会社全体の売上高や利益にも影響する。訪日客の増加だけで業績の良し悪しを説明することは避けたい。

旅行・予約4社とJTB:訪日需要だけでは説明できない

旅行会社や予約・比較サイトは、訪日旅行だけでなく、国内旅行や日本人の海外旅行も扱う。旅行市場全体が活発でも、各社がどの需要を取り込んでいるかによって収益は異なる。

旅行・予約関連4社+JTBの連結業績|各欄の上段:売上高、下段:営業利益(億円)
会社・コード 10年前 5年前 直近通期 直近の
営業利益率
HIS
9603
2015/10
5,374.6
199.7
出典
2020/10
4,302.8
▲311.3
出典
2025/10
3,731.1
116.3
出典
3.1%
KNT-CTホールディングス
9726
2016/3(3か月)
849.7
▲26.5
出典
2021/3
878.9
▲270.8
出典
2026/3
2,970.7
60.7
出典
2.0%
アドベンチャー
6030
2016/6
26.8
2.9
出典
2021/6(IFRS)
80.4
8.6
出典
2026/6(IFRS)
256.3
11.0
出典
4.3%
オープンドア
3926
2016/3
24.7
8.5
出典
2021/3
11.2
▲7.7
出典
2026/3
24.5
▲0.5
出典
▲1.8%
JTB
非上場
2016/3
13,437.1
161.5
出典
2021/3
3,721.1
▲975.6
出典
2026/3
11,333.0
145.3
出典
1.3%

比較上の注意:KNT-CTの2016年3月期は、決算期変更による2016年1~3月の3か月決算。他の12か月決算との成長率比較には使用しない。HISは2015・2020・2025年10月期の比較。アドベンチャーの2016年6月期は日本基準の営業収益、2021・2026年6月期はIFRSの収益を表示している。

HIS・JTB:コロナ禍から回復しても、10年前の営業利益には届かず

HISの2025年10月期の営業利益は116.3億円で、2015年10月期の199.7億円の約58%。JTBの2026年3月期は145.3億円で、2016年3月期の161.5億円の約90%だった。両社ともコロナ禍の大幅赤字から回復したが、公表値では10年前の営業利益を下回っている。

ただし、HISは2022年10月期から収益認識基準が変わっており、売上高の計上方法や連結する事業の変化に注意が必要だ。過去の売上高と現在の売上高の差を、そのまま旅行取扱規模の縮小と読むことはできない。

JTBは非上場企業として、公式の連結決算概要を用いた。訪日旅行などが伸びた一方、人材やシステム等への投資も行っていると会社は説明している。2026年3月期は前期比5.6%増収でも、営業利益は2.2%減少した。需要拡大と投資・費用の関係を見るうえで参考になる。JTB・会社発表

KNT-CT:直近通期は増収でも、営業利益の伸びは小さい

近畿日本ツーリストやクラブツーリズムを傘下に持つKNT-CTは、2026年3月期に営業利益60.7億円を計上した。同じ基準で比べられる前期との比較では、売上高が8.2%増えた一方、営業利益は0.5%増にとどまる。売上の増加が、同じ勢いで利益の増加につながるとは限らない。

アドベンチャー:規模拡大と利益率を分けて見る

skyticketを展開するアドベンチャーは、2026年6月期に収益256.3億円、営業利益11.0億円を計上した。10年前から事業規模は拡大しているが、日本基準とIFRSの違いがあるため、売上の倍率をそのまま成長率として扱わない。営業利益率も、各期の会計基準や損益項目を踏まえて読む必要がある。

オープンドア:売上が同水準でも、利益は異なる

旅行比較サイト「トラベルコ」を運営するオープンドアは、2026年3月期の売上高が24.5億円と、10年前の24.7億円とほぼ同水準だった。一方、営業損益は8.5億円の黒字から0.5億円の赤字になっている。旅行需要全体の回復が、個々の予約・比較サービスの利益を保証するものではないことが分かる。

考察:インバウンド市場の成長と、企業の成長は同じではない

インバウンド市場は長期的に拡大した。しかし、すべての観光関連企業が、その成長を自社の利益成長に結び付けているわけではない。

今回の公表値比較では、共立メンテナンスやグリーンズのように10年前を超える営業利益を稼ぐ企業がある一方、帝国ホテル、HIS、JTBなどは当時の利益水準に届いていない。オープンドアは直近通期でも営業赤字だ。業界への追い風と、会社ごとの収益力を分けて見る必要がある。

  • 誰の旅行を扱っているか:訪日客、国内客、日本人の海外旅行では需要の動きが異なる。
  • 需要を単価と利益に変えられるか:ホテルでは稼働率に加え、客室単価や販売経路も重要になる。
  • 費用・投資を吸収できているか:増収でも人件費、改装費、システム投資などによって利益が伸びない場合がある。
  • 事業の範囲が変わっていないか:新規出店、買収、売却、会計基準変更が長期比較に影響する。

また、5年前はコロナ禍の影響が大きい。そこからの黒字回復だけを見て「成長した」と判断するより、10年前の利益額・利益率と、現在の事業構成を併せて確認したい。本比較は各社の訪日需要による利益寄与額を算定したものではなく、企業間の違いを検討するための出発点である。

比較方法・出典

2026年3月・6月期の会社は2016・2021・2026年の各決算期、藤田観光は2015・2020・2025年12月期、HISは2015・2020・2025年10月期を使用した。「直近」は最新の四半期決算ではなく、直近公表済み通期決算を指す。訪日客数は直近の確定年間値である2025年を基準とし、期間の異なる企業業績との厳密な連動性や因果関係を検証したものではない。

企業数値の出典は各比較表のリンクに掲載。アドベンチャーの直近期は2026年9月24日訂正版、2021年6月期は2022年6月期決算短信に掲載されたIFRS比較数値を使用した。JTBは公式決算概要による連結数値であり、官報の単体決算公告に基づく数値ではない。営業利益率・倍率・訪日客数の指数は掲載値を基に当サイトで計算した。

免責事項

本記事は、企業や公的機関が公表した資料を基に、業績や事業の理解を目的として作成したものです。特定の有価証券の購入・売却その他の投資行動を推奨・勧誘するものではありません。情報の正確性・完全性を保証するものではなく、掲載後の訂正や状況変化によって内容が変わる場合があります。過去の業績は将来の成果を保証しません。投資判断は、最新の開示資料等を確認のうえ、ご自身の責任で行ってください。

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