日本の乗用車メーカー7社を、10年前の2016年3月期、直近通期の2026年3月期、そして直近10期の最高・最低で比較する。売上高だけでなく、連結営業利益と四輪販売台数を重ねることで、各社の成長と低迷の姿を読み解く。
今回の7社では、10年前より営業利益と四輪販売台数がともに増えたのはトヨタとスズキだった。ただし、両社とも直近の営業利益は期間内ピークを下回る。「独り勝ち」と断定するよりも、ピークを維持できているか、量を増やさずに利益を伸ばしているかを分けて評価したい。
比較範囲・集計方法
- 対象:トヨタ、スズキ、ホンダ、日産、マツダ、SUBARU、三菱自動車の7社。商用車専業、部品メーカーは対象外。ダイハツはトヨタの連結範囲に含まれる。
- 10年前:2016年3月期。直近:2026年3月期。最高・最低の集計対象:2017年3月期~2026年3月期の10期。2016年は最高最低の集計には含めない。したがって、10年前の値が「10期内最高」を上回る場合もある。
- 「最高・最低」は今回の期間内の実績を意味し、創業以来の記録とは異なる。通期予想や2027年3月期の四半期値は含めない。
- 売上高、営業利益、台数をそれぞれ独立して集計し、各々の該当期を表示する。損失のある年度は負の数として最低を判定する。
- 金額は連結全社。ホンダの二輪・金融、スズキの二輪・マリン等を含む。台数は四輪であり、連結利益÷四輪台数を「自動車1台の利益」とはしない。
- 各社の台数定義は異なる。トヨタ・SUBARUは連結販売、ホンダは持分法会社等を含むグループ販売、日産はグローバル小売、スズキはブランド四輪販売(OEM外数)、マツダはグローバル販売、三菱自動車は小売販売。横並びの厳密な台数順位ではなく、各社の時系列を中心に読む。
- 会計基準変更・遡及修正は公表された年次表を優先して反映した。トヨタの2020年以降、SUBARUの2019年以降、スズキの2024年以降はIFRS組替値。以前は異なる会計基準のため完全に同条件ではない。マツダの2019年財務も遡及修正後の値を採用。日産は中国合弁会社の持分法ベースに統一し、比例連結の参考値を混在させない。
1.売上高:直近が最高でも、事業量が最大とは限らない
単位:兆円。数値は原資料の表示精度に合わせた概数。括弧内は3月期。
| 会社 | 10年前:2016年3月期 | 直近:2026年3月期 | 10期内最高〔決算期〕 | 10期内最低〔決算期〕 |
|---|---|---|---|---|
| トヨタ | 28.403 | 50.685 | 50.685〔2026〕 | 27.215〔2021〕 |
| スズキ | 3.181 | 6.293 | 6.293〔2026〕 | 3.170〔2017〕 |
| ホンダ | 14.601 | 21.797 | 21.797〔2026〕 | 13.171〔2021〕 |
| 日産 | 12.190 | 12.008 | 12.686〔2024〕 | 7.863〔2021〕 |
| マツダ | 3.407 | 4.918 | 5.019〔2025〕 | 2.882〔2021〕 |
| SUBARU | 3.232 | 4.785 | 4.785〔2026〕 | 2.745〔2022〕 |
| 三菱自動車 | 2.268 | 2.897 | 2.897〔2026〕 | 1.456〔2021〕 |
トヨタ、スズキ、ホンダ、SUBARU、三菱自動車は直近売上が期間内最高となった。一方、各社の四輪台数を見ると、多くは過去のピークを下回る。値上げ・車種構成・為替や自動車以外の事業も売上を左右するため、増収だけで数量成長と結論付けることはできない。
2.営業利益:ピークの時期と、そこからの変化
単位:億円。各社資料の億円表示を優先した概数。括弧内は3月期。
| 会社 | 10年前:2016年3月期 | 直近:2026年3月期 | 10期内最高〔決算期〕 | 10期内最低〔決算期〕 |
|---|---|---|---|---|
| トヨタ | 28,539 | 37,662 | 53,529〔2024〕 | 19,943〔2017〕 |
| スズキ | 1,953 | 6,229 | 6,429〔2025〕 | 1,915〔2022〕 |
| ホンダ | 5,033 | -4,143 | 13,819〔2024〕 | -4,143〔2026〕 |
| 日産 | 7,933 | 580 | 7,422〔2017〕 | -1,507〔2021〕 |
| マツダ | 2,268 | 516 | 2,505〔2024〕 | 88〔2021〕 |
| SUBARU | 5,656 | 401 | 4,682〔2024〕 | 401〔2026〕 |
| 三菱自動車 | 1,384 | 755 | 1,910〔2024〕 | -953〔2021〕 |
7社すべてで、直近営業利益は期間内の最高を下回る。トヨタ・ホンダ・マツダ・SUBARU・三菱自動車では2024年3月期が期間内最高で、スズキは2025年3月期、日産は2017年3月期だった。
3.四輪販売台数:台数成長・縮小を分けて見る
単位:万台。数値は原資料の表示精度に合わせた概数。括弧内は3月期。
| 会社 | 10年前:2016年3月期 | 直近:2026年3月期 | 10期内最高〔決算期〕 | 10期内最低〔決算期〕 |
|---|---|---|---|---|
| トヨタ | 868.1 | 959.5 | 959.5〔2026〕 | 764.6〔2021〕 |
| スズキ | 286.1 | 332.0 | 332.7〔2019〕 | 257.1〔2021〕 |
| ホンダ | 474.3 | 338.7 | 532.3〔2019〕 | 338.7〔2026〕 |
| 日産 | 542.3 | 315.1 | 577.0〔2018〕 | 315.1〔2026〕 |
| マツダ | 153.4 | 122.3 | 163.1〔2018〕 | 111.0〔2023〕 |
| SUBARU | 95.8 | 89.6 | 106.7〔2018〕 | 73.4〔2022〕 |
| 三菱自動車 | 104.8 | 79.7 | 124.4〔2019〕 | 79.7〔2026〕 |
直近が期間内最高なのは、各社が採用する台数定義ではトヨタ。スズキは2019年のピークにほぼ並ぶ水準まで戻っている。ホンダ、日産、三菱自動車は直近が期間内最低となった。各社の定義が異なるため、7社の台数を合計して市場全体の増減を推計しない。
4.ピークと比べた現在地
| 会社 | 直近営業利益のピーク比 | 直近販売台数のピーク比 | 現在地の読み方 |
|---|---|---|---|
| トヨタ | -29.6% | 期間内最高 | 台数は期間内最高、利益は2024年ピークを下回る |
| スズキ | -3.1% | -0.2% | 台数は2019年ピークに近く、利益は2025年の高水準に近い |
| ホンダ | 黒字から赤字へ | -36.4% | 四輪台数と連結営業損益は期間内最低 |
| 日産 | -92.2% | -45.4% | 売上よりも台数・利益の縮小が大きい |
| マツダ | -79.4% | -25.0% | 台数は2023年の底から回復、利益はピークから大きく減少 |
| SUBARU | -91.4% | -16.0% | 売上は期間内最高、営業利益は期間内最低 |
| 三菱自動車 | -60.5% | -35.9% | 売上は期間内最高、小売台数は期間内最低 |
ピーク比は直近実績÷各指標の10期内最高値-1から算出。赤字のホンダは営業利益の減少率を表示せず、黒字から赤字への転換として示す。底からの回復は必要に応じて金額・台数差で説明し、赤字を分母にした増益率は使わない。
5.各社の成長・低迷要因
トヨタ:規模と収益基盤を保つが、利益率は10年前より低下
営業利益の期間内ピークは2024年3月期の約5兆3,529億円。直近はその約70.4%に当たる。販売台数は2026年3月期が期間内最高であり、台数のピークと利益のピークは一致していない。
連結販売台数は10年前比約10.5%増、営業利益は約32%増。一方、営業利益率は2016年の約10.0%から2026年の約7.4%へ低下した。会社は2026年の増益要因として販売台数増・価格改定・バリューチェーン収益拡大を挙げる一方、米国関税を約1兆3,800億円の減益要因として示している。「強いが逆風を免れてはいない」という位置付けが適切だ。
出典:2026年決算説明資料。
スズキ:台数以上に利益が伸びた長期成長
営業利益は2025年3月期の約6,429億円が期間内最高で、直近はピーク比約3.1%減。四輪販売台数は2019年3月期の332.7万台が期間内最高で、直近332.0万台はほぼ同水準。台数がピークを更新し続けているというより、利益が高い水準にあると読むべきだ。
四輪販売は10年前の286.1万台から332.0万台へ約16%増。全社営業利益は約3.2倍となった。インド販売は2016年の130.5万台から2026年の186.2万台へ拡大。2026年は台数・構成改善や原価低減が利益を支える一方、原材料価格や固定費・研究開発費・減価償却費の増加により営業減益となった。長期成長と今後の投資負担の双方を追いたい。
ホンダ:四輪の縮小と、二輪の成長を分ける
四輪グループ販売のピークは2019年3月期の532.3万台で、直近は約36.4%少ない。営業利益の期間内最高は2024年3月期で、直近2026年3月期は営業損益・四輪台数とも期間内最低。営業損益が黒字から赤字へ転じたため、ピークからの減少率表示は用いない。
四輪グループ販売は474.3万台から338.7万台へ減少。2026年は四輪EV関連損失1兆4,536億円が重く、四輪営業損失は1兆4,111億円となった。一方、二輪営業利益は7,319億円と過去最高。全社赤字だけを見て事業全体が低迷と結論付けるのも、EV関連損失を除いた会社調整後利益だけで評価するのも避けたい。
出典:Honda決算説明資料。
日産:販売規模の縮小と再建の進捗
今回の10期では営業利益の最高は2017年3月期の約7,422億円、販売台数の最高は2018年3月期の約577.0万台。直近営業利益はピーク比約92.2%減、台数は約45.4%減となる。一方、売上高のピークは2024年3月期で、数量と金額のピークのずれが大きい。
グローバル販売は約542万台から315万台へ約42%減少。営業利益は黒字だが、2016年の7,933億円から2026年は580億円に縮小した。会社はコスト削減等を進める一方、関税・インフレ・市場環境の厳しさを説明している。営業利益とは別に純損失5,331億円、自動車事業の通期フリーキャッシュフロー約マイナス4,808億円も確認が必要。販売回復と固定費の適正化が両立するかが焦点となる。
出典:2025年度決算発表。
マツダ:増収だけでは見えない台数減と採算悪化
販売の最高は2018年3月期の163.1万台、最低は2023年3月期の111.0万台。直近122.3万台は底から約10.2%回復したが、ピーク比では約25.0%少ない。営業利益は2024年3月期の約2,505億円から直近約516億円へ約79.4%減少している。
売上は10年前を上回る一方、販売台数は153.4万台から122.3万台へ減少し、営業利益も2,268億円から516億円へ縮小。会社は米国関税への対応、米国CX-30の販売減、欧州での旧型CX-5・MAZDA2等の販売終了を説明する。下期は台数・構成改善や原価低減で回復しており、通期の弱さと下期の改善を区別して評価したい。
出典:決算説明会スクリプト。
SUBARU:10年前の高収益から、関税・電動化費用の負担へ
売上収益は2026年3月期が期間内最高だが、営業利益は同じ期が期間内最低。営業利益の10期内ピークは2024年3月期の約4,682億円で、直近は約91.4%少ない。なお別枠の2016年3月期は約5,656億円で、今回の10期内ピークをさらに上回る。
連結販売台数は95.79万台から89.57万台へ小幅に縮小したが、営業利益は5,656億円から401億円へ大きく減少。会社は2026年の自動車部門について、米国追加関税、環境規制関連費用、BEV関連費用を主な減益要因として説明している。台数以上に利益が動く構造と、一時費用の影響を確認する必要がある。
出典:年次データ、事業別セグメント説明。
三菱自動車:コロナ期から黒字回復も、10年前の規模には届かず
営業利益は2024年3月期の約1,910億円が期間内最高で、直近は約60.5%減。販売台数は2019年3月期の124.4万台が最高、直近79.7万台が最低。コロナ期2021年3月期の80.1万台よりもわずかに少ない。
小売販売は104.8万台から79.7万台へ減少。2021年の営業赤字からは回復したが、2026年の営業利益755億円は10年前の1,384億円を下回る。会社資料では米国関税支払額474億円、為替374億円が減益要因。一方、台数・車種構成の改善等は下支えした。新車投入と地域別販売の回復が利益に結び付くかを追いたい。
出典:2025年度決算報告。
6.結論:トヨタは規模、スズキは高収益維持が目立つ
トヨタは連結販売台数と売上収益が期間内最高だが、営業利益は2024年のピークから約29.6%低い。スズキは販売台数が以前のピークに近く、営業利益も前年のピーク比約3.1%減にとどまる。今回の比較では両社の強さが目立つ一方、同じ成長の姿ではない。
また、ホンダは二輪事業の成長と四輪事業の課題が併存する。SUBARUは売上最高でも利益最低であり、日産はピーク時との台数・利益の開きが大きい。マツダは台数が底から回復しているが利益のピークには遠く、三菱自動車はコロナ期を下回る小売台数で採算をどう高めるかが課題となる。
今後は、販売台数だけでなく、値引きを含む販売採算、商品構成、関税・為替、一時費用、自動車事業のキャッシュ創出力を確認したい。会社発表の調整後利益や関税除外値は、実際の連結営業利益とは区別して補助的に扱う。
主な一次資料
| 会社 | 全期比較・補足資料 |
|---|---|
| トヨタ | 統合報告2025・163頁、2026年3月期短信 |
| スズキ | 業績推移、2017年参考資料、2019年参考資料、2026年参考資料 |
| ホンダ | Honda Report2025・44/91頁、2019年データ、2026年決算説明資料 |
| 日産 | 2023年度公式資料一式・Historical financial data、2026年3月期短信、2025年3月期有報 |
| マツダ | 2026年統合報告データ編、2018年説明資料、2019年短信、2020年短信 |
| SUBARU | 年次データ集・1/8シート |
| 三菱自動車 | 統合報告2021・38頁、統合報告2026・62頁 |
台数の補足資料:スズキ2020年、2022年、2024年、マツダ2022年短信(2021年台数併記)。
免責事項
本記事は公表資料に基づく情報提供を目的とし、投資の勧誘・推奨を目的とするものではありません。比較は対象7社の公表値に基づくもので、自動車業界全体の評価ではありません。会計基準、連結範囲、台数の集計方法は各社・年度で異なり、完全に同条件の比較ではありません。掲載数値は概数であり、端数処理や資料改訂により差異が生じる場合があります。判断にあたっては各社の最新の原資料をご確認ください。

